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椿                         

 足利の街から、北に連なる山にむかって40分も車をはしらせると、飛駒(ひこま)というところがあります。 いくつも町を通ってトンネルをぬけて、峠を越えたところにある静かな村です。 昔はこのあたりに野生の馬がたくさんいたのだそうです。 それで、 ”飛駒”という名がついたとか……。 平家物語・宇治川の先陣争いで有名な、生食(いけづき)、磨墨(するすみ)という名前の名馬は、ここの産だということですが……。

 山の上から日がのぼり、山のむこうに日が落ちる、というところなので、自然は豊かです。 ここにアトリエをかまえ、自然とともにくらし、製作にはげんでいる芸術家が、何人もいます。 そんな生活、いいなァ、理想のくらしですよね。

 そのなかのひとり、Mさんのアトリエの庭に、大きな紅椿の木があります。 それも、紅の色濃く、はなびらのあつくかさなった八重咲きのつばきです。 春、四月のなかばになると、はなびらをいただきにゆきます。 ふつう、花は、一年おきに沢山さいたり、少ししか花をつけなかったりする、といいますが、この椿は、毎年、枝が折れるのではないかと心配するくらい、咲いてくれます。
 「花は、見頃をすぎたら、摘んでしまったほうが来年のためにはいいのよね、」などといいながら、スーパーの袋に、いっぱい貰ってしまいます。 それでも、どこのを採ったかわからないほどの大きな椿の木なのです。


 花びらを染めるとき、薬品をつかったり、醗酵させたりする方法もあるようですが、これは、ただ、単純に煮だします。 なるべく、自然のままに、というのがモットーです。
染めるものの2倍から3倍の量の花びらをつかいます。 そのまま煮出して色がつく花というのは、本当に少ないのです。 ウールに染めると、ピンクベージュのすてきないろになりました。 堅牢度もまずまずで、マフラー、ストール、手編みのセーターなどに、 大切につかいます。 花で染めたものって、なんか、特別なんですよね。

椿は、葉でもそまります。 椿は、樹である、と、納得する色になります。

(1999,4,30)

     
       
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